Kolmogorov商写像のホモトピー同値性と選択公理

位相空間論における基礎的な構成の一つである Kolmogorov 商空間への商写像がホモトピー同値写像になるという性質は、実は Zermelo-Fraenkel 集合論 (ZF) のもとで選択公理 (Axiom of Choice, AC) と同値になります。本稿では、この興味深い事実について、必要な基本概念の定義や具体例から出発し、自己完結的 (self-contained) かつ丁寧に解説を行います。


1. 基本概念の準備

まずは証明に必要な位相空間論の基本用語を厳密に定義する。

定義 1 (トポロジカルな識別不能関係)

位相空間 $X$ において、2点 $x, y \in X$ が識別不能 (topologically indistinguishable) であるとは、$X$ の任意の開集合 $U$ に対して以下が成り立つことである。 $$x \in U \iff y \in U$$ このとき $x \sim y$ と表記する。関係 $\sim$ は $X$ 上の同値関係 (equivalence relation) である。

定義 2 (Kolmogorov商空間)

位相空間 $X$ を上記の識別不能関係 $\sim$ で割った商空間 (quotient space) $X_0 = X / \sim$ を、元の空間の Kolmogorov商空間 (Kolmogorov quotient space)、または $T_0$ 化 (T0-reflection) と呼ぶ。 自然な射影 $q: X \to X_0$ ($x \mapsto [x]$) を商写像 (quotient map) という。

例 1

定義 3 (ホモトピーと同値性)

2つの連続写像 $f, g: X \to Y$ がホモトピック (homotopic) であるとは、連続写像 $H: X \times [0, 1] \to Y$ が存在して、任意の $x \in X$ について $H(x, 0) = f(x)$ かつ $H(x, 1) = g(x)$ が満たされることである。このとき $f \simeq g$ と書く。

連続写像 $f: X \to Y$ がホモトピー同値写像 (homotopy equivalence) であるとは、ある連続写像 $g: Y \to X$ が存在して、$g \circ f \simeq \mathrm{id}_X$ かつ $f \circ g \simeq \mathrm{id}_Y$ を満たすことである($\mathrm{id}$ は恒等写像)。

Kolmogorov商空間を考える上で、以下の性質が ZF 上(選択公理なし)で成立することは非常に重要である。

命題 1 (開写像性)

位相空間 $X$ とその Kolmogorov 商空間 $X_0$ への商写像 $q: X \to X_0$ について、$X$ の開集合 $U$ による像 $q(U)$ は $X_0$ の開集合となる。すなわち、$q$ は開写像 (open map) である。
証明:
開集合 $U \subset X$ を任意にとる。$\sim$ の定義から、$x \in U$ かつ $x \sim y$ ならば $y \in U$ が成り立つ。したがって、$U$ は同値関係 $\sim$ に関して飽和 (saturated) している。これにより、 $$q^{-1}(q(U)) = \{ x \in X \mid [x] \in q(U) \} = U$$ となる。商位相 (quotient topology) の定義によれば、$X_0$ の部分集合 $V$ が開集合であることと、$q^{-1}(V)$ が $X$ で開集合であることは同値である。$V = q(U)$ とおくと $q^{-1}(q(U)) = U$ であり、$U$ は開集合なので、$q(U)$ は $X_0$ の開集合となる。$\blacksquare$

2. 主定理の証明

ここから、Zermelo-Fraenkel 集合論をベースとして、選択公理 (Axiom of Choice, AC) と対象の命題が同値であることを証明する。

主定理

ZF 集合論上において、以下の2つの命題は同値である。
  1. 選択公理 (Axiom of Choice) が成立する。
  2. 任意の位相空間 $X$ に対し、その Kolmogorov 商空間 $X_0$ への商写像 $q: X \to X_0$ はホモトピー同値写像 (homotopy equivalence) である。

証明: 1 (AC) $\implies$ 2 (ホモトピー同値性)

選択公理 (Axiom of Choice) を仮定する。

ステップ1: 選択関数 (choice function) の構成
$X_0$ の各元は $X$ 上の同値類 $[x]$ であり、これらは空ではない互いに素な $X$ の部分集合の族をなす。選択公理により、各同値類から代表元を1つずつ選ぶ写像(セクション) $f: X_0 \to X$ が存在する。この写像は任意の $[x] \in X_0$ に対して $f([x]) \in [x]$ を満たす。したがって、 $$q(f([x])) = [x]$$ であり、$q \circ f = \mathrm{id}_{X_0}$ が成立する。

ステップ2: 写像 $f$ の連続性 (continuity)
$X$ の任意の開集合 $U \subset X$ をとる。$f$ の逆像は以下のようになる。 $$f^{-1}(U) = \{ [x] \in X_0 \mid f([x]) \in U \}$$ ここで、$f([x])$ と $x$ は同じ同値類に属するためトポロジカルに識別不能である。$U$ は開集合なので、$f([x]) \in U \iff x \in U \iff [x] \subset U$ が成り立つ。したがって、 $$f^{-1}(U) = \{ [x] \in X_0 \mid [x] \subset U \} = q(U)$$ 命題1で示した通り、$q$ は開写像 (open map) なので、$q(U)$ は $X_0$ の開集合である。よって $f^{-1}(U)$ は開集合であり、$f$ は連続である。

ステップ3: ホモトピー (homotopy) の構成
すでに $q \circ f = \mathrm{id}_{X_0}$ は示された(これは恒等ホモトピーで $\mathrm{id}_{X_0}$ とホモトピックである)。残るは $f \circ q: X \to X$ が $\mathrm{id}_X$ とホモトピックであることの証明である。
写像 $H: X \times [0, 1] \to X$ を次のように定義する。 $$ H(x, t) = \begin{cases} x & (0 \le t < 1) \\ f(q(x)) & (t = 1) \end{cases} $$ この $H$ が連続であることを示す。$X$ の任意の開集合 $U$ をとる。積位相の定義に従い、$H^{-1}(U)$ の構造を調べる。 $$H^{-1}(U) = \{ (x, t) \in X \times [0, 1] \mid H(x, t) \in U \}$$ $0 \le t < 1$ のとき、$H(x, t) = x$ であるため、$H(x, t) \in U \iff x \in U$。
$t = 1$ のとき、$H(x, 1) = f(q(x))$ である。ここで $f(q(x))$ と $x$ は同一の同値類に属するため識別不能であり、$U$ が開集合であることから $f(q(x)) \in U \iff x \in U$ である。
したがって、すべての $t \in [0, 1]$ について $H(x, t) \in U \iff x \in U$ が成立し、 $$H^{-1}(U) = U \times [0, 1]$$ となる。$U \times [0, 1]$ は直積空間 $X \times [0, 1]$ の開集合である。よって $H$ は連続写像であり、$f \circ q \simeq \mathrm{id}_X$ を与えるホモトピー (homotopy) となる。以上により、$q$ はホモトピー同値写像である。

証明: 2 (ホモトピー同値性) $\implies$ 1 (AC)

任意の位相空間の Kolmogorov 商写像がホモトピー同値写像になるという命題を仮定し、選択公理を導出する。選択公理と同値な「任意の互いに素な非空集合の族から元を1つずつ選ぶ関数が存在する」ことを証明する。

ステップ1: 特殊な位相空間の構成
互いに素な非空集合の族 $\{A_i\}_{i \in I}$ をとる。これらの和集合を $X = \bigcup_{i \in I} A_i$ とする。
$X$ 上に、以下のような開集合系 $\tau$ によって位相を定義する。 $$\tau = \left\{ \bigcup_{i \in J} A_i \;\middle|\; J \subset I \right\}$$ (空集合は $J = \varnothing$ のとき $\varnothing \in \tau$ として含まれる)。
この位相空間 $X$ では、各成分 $A_i$ は開集合であり、かつ開集合は $A_i$ の単位の和集合でしか構成されない。したがって、同じ $A_i$ に属する任意の2点 $x, y \in A_i$ はすべての開集合の所属が完全に一致し、$x \sim y$ となる。異なる $A_i, A_j$ ($i \neq j$) に属する点は、開集合 $A_i$ が一方を含み他方を含まないため区別される。 ゆえに、同値類は各 $A_i$ そのものであり、Kolmogorov 商空間 $X_0 = X / \sim$ は添字集合 $I$ と自然に全単射となる。

ステップ2: 商空間 $X_0$ の位相的性質
$X_0 \cong I$ の位相を考える。$I$ の任意の部分集合 $J \subset I$ に対応する $X$ の集合 $\bigcup_{i \in J} A_i$ が $X$ の開集合であるため、商位相の定義から $X_0$ は離散空間 (discrete space) となる。

(注)離散空間の位相的性質:
離散空間においては、すべての部分集合が開集合であると同時に閉集合でもある(このような集合を clopen と呼ぶ)。さらに、離散空間は「任意の開集合の閉包が開集合となる」という性質を満たすため、超不連結 (extremally disconnected) な空間の典型的な例である。この性質により、離散空間は極度に分離されており、連結なパスを持つことができない。

ステップ3: 選択関数 (choice function) の抽出
仮定より、商写像 $q: X \to X_0$ はホモトピー同値写像である。したがって、ある連続写像 $f: X_0 \to X$ が存在し、 $$q \circ f \simeq \mathrm{id}_{X_0}$$ が成り立つ。すなわち、連続なホモトピー写像 $K: X_0 \times [0, 1] \to X_0$ が存在して、$K(x_0, 0) = q(f(x_0))$ かつ $K(x_0, 1) = x_0$ を満たす。

ここで、$X_0$ 上の各点 $i \in X_0$ を固定し、パス $t \mapsto K(i, t)$ を考える。この写像は連結空間 (connected space) $[0, 1]$ から離散空間 $X_0$ への連続写像である。連結空間の連続写像による像は連結でなければならないが、離散空間における連結な部分集合は1点のみである。したがって、このパスは定数写像 (constant map) にならざるを得ない。

ゆえに、すべての $t \in [0, 1]$ について $K(i, t)$ は一定であり、両端点が一致する。 $$q(f(i)) = i$$ この等式 $q \circ f = \mathrm{id}_{X_0}$ は、$X_0$ の各元 $i$(元の集合族の添字)に対して、$f(i)$ が $X$ 内の同値類 $A_i$ の元に他ならないことを意味している。 $$f(i) \in A_i$$ よって、連続写像として保証された $f: I \to X$ は、族 $\{A_i\}_{i \in I}$ の各集合から元を1つずつ選び出す選択関数 (choice function) にほかならない。任意の族に対して選択関数が存在することが示されたため、選択公理 (Axiom of Choice) が証明された。$\blacksquare$


3. 解説と背景

位相空間論における多くの自然な写像の存在定理や構成は、暗黙のうちに選択公理に依存していることがあります。この Kolmogorov 商写像のケースは、一見すると「ただ同一視を行って代表元を扱うだけ」のホモトピー同値に見えますが、その「代表元を選ぶ連続なセクションの存在」が直接的に選択公理そのものを要求しているという点で、集合論と位相空間論の深い結びつきを示す美しい例です。


参考文献